監督・ナレーション 河瀨直美
音楽 ハシケン
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吉野町の東の端に位置する国栖(くず)は、清流吉野川と高見川が合流して描く大きな弧が美しい風光明媚な山里です。
日本神話や壬申の乱など、太古から歴史の舞台にも登場してきました。この地で漉(す)かれる吉野和紙は、1300年前に大海人皇子(後の天武天皇)が、吉野の清流や気候・風土が紙漉きに適しているとして里人に伝えたという伝説があります。
原料の楮を何度も川の水で晒し、不純物や埃を丹念に取り除き、一枚一枚漉いて天日干しします。この手間暇をかける伝統技法は、ヨーロッパの文化財の修復にも使用される強くてしなやかな極上の紙を生み出してきました。
かつては300軒以上あったといわれる紙漉きの家は、今ではわずか数軒となりましたが、紙漉き職人の精神は割箸や陶芸など新たな手仕事にも受け継がれ、今や国栖は「ものづくりの里」としても知られています。
日本古来の「強さ」には、自然の恵みを活かす知恵、妥協を許さぬ愚直さ、そして伝統を守る人々の誇りが漉き込まれているのかもしれません。